焼戻マルテンサイトは、焼入れマルテンサイトを焼戻して炭化物を析出させ、硬さ・残留応力・靭性のバランスを調整した組織です。
組織の生成条件は鋼種・成分・部品寸法・前組織で変わります。本文中の温度や硬さの例は、その条件を明示して読み、別材質へそのまま置き換えないでください。
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1. 焼戻マルテンサイトとは?
焼戻マルテンサイトは、焼入れで得たマルテンサイトを焼戻したときにできる組織です。焼戻しによってマルテンサイト中の過飽和炭素が炭化物として析出し、硬さを下げながら靭性と安定性を整えます。
焼入れマルテンサイトをそのまま最終状態とせず、用途に合わせて焼戻して使う理由はここにあります。
2. 焼戻すと組織の中で何が変わる?

- 低温側ではマルテンサイト中の炭素が移動し、微細炭化物の析出が始まる
- 温度が上がると、より安定なセメンタイトの析出・凝集が進む
- マルテンサイトの格子ひずみと残留応力が緩和される
- 高温側ではフェライト素地+炭化物粒子の状態へ近づく
変化量は焼戻温度だけでなく、保持時間と鋼種にも依存します。
3. 低温焼戻しと高温焼戻しの違い
| 項目 | 低温側の焼戻し | 高温焼戻し |
|---|---|---|
| 主目的 | 高硬さを保ちながら応力を低減 | 強度と靭性のバランスを調整 |
| 組織 | 微細炭化物を含む焼戻マルテンサイト | フェライト+より凝集した炭化物 |
| 硬さ | 比較的高い | 低温側より低下する傾向 |
| 用途の考え方 | 工具・耐摩耗など高硬さ重視 | 構造部品など強靭性重視 |
境界温度を一律に決めるのではなく、材質と要求特性に応じて焼戻条件を設定します。
4. 焼戻し条件でどう変わる?
焼戻しでは、温度・保持時間・鋼種によって炭化物の析出・凝集が進み、一般には硬さが低下し、靭性が増す方向へ変化します。合金鋼では二次硬化などの例外もあるため、材質ごとの熱処理仕様で判断します。
5. 顕微鏡では何を見る?
焼戻マルテンサイトでは、元のマルテンサイトの針状・ラス状の骨格が残りつつ、腐食されやすくなって暗く見えることがあります。高温焼戻しでは炭化物の凝集がさらに進みます。
光学顕微鏡で微細炭化物そのものを明瞭に識別できない場合もあるため、見え方だけで焼戻温度を断定しません。
6. 硬さと靭性はどう変わる?

一般に焼戻しが進むと焼入れ直後より硬さ・強さは低下する一方、靭性や延性は改善します。これは性能低下ではなく、用途に必要なバランスへ調整する操作です。
同じ硬さでも、焼入れままと適切に焼戻した状態では残留応力や靭性が異なるため、硬さ値だけで品質を判断しません。
7. 調質との関係
焼戻しを理解したうえで見ると分かりやすく、焼入れ後に比較的高い温度で焼戻し、強度と靭性を両立させる処理を一般に調質と呼びます。高温側の焼戻しでは炭化物の析出・凝集が進み、強度と靭性のバランスを調整します。
構造用炭素鋼や合金鋼では、調質によって機械部品に必要な強靭性を狙います。
8. 焼戻しで注意する例外
- 材質によって焼戻脆性が問題になる温度域がある
- 高合金工具鋼では二次硬化が現れ、温度上昇=単純な軟化とはならない場合がある
- 焼戻温度・時間の不均一は硬さむらにつながる
- 残留オーステナイトの分解・二次マルテンサイト変態が関係する鋼もある
具体条件は材質規格と熱処理仕様を優先します。
9. 旧用語トルースタイト・ソルバイトはどう扱う?
旧来の文献では「トルースタイト」「ソルバイト」という名称が使われることがありますが、UG BASEでは組織状態が分かる焼戻マルテンサイト/高温焼戻マルテンサイトを基本表記とします。
10. 実務で確認するポイント
- 材質と焼入れ状態
- 焼戻温度・保持時間・冷却方法
- 焼戻し前後の硬さ
- 組織の均一性
- 必要に応じて残留応力・残留オーステナイト
- 要求される強度・靭性・耐摩耗性との適合
11. FAQ
Q. 焼戻すとマルテンサイトは柔らかくなる?
一般には硬さが低下します。ただし高合金鋼では二次硬化が起こる場合があります。
Q. 高温焼戻マルテンサイトは別物?
同じ焼戻マルテンサイト系列として理解できます。主な違いは炭化物の析出・凝集の進み方と、それに伴う性質です。
Q. 焼入れ後は必ず焼戻しが必要?
多くの焼入鋼では焼戻しを組み合わせます。具体条件は材質・用途・規格・熱処理仕様に従います。
12. 参考資料・技術確認
現行用語の確認にはJIS G 0201:2023「鉄鋼用語(熱処理)」などの公開情報を参照しています。焼戻し条件と硬さの関係は材質・成分・前処理に依存するため、特定試料の数値を一般値として扱いません。


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