焼入れで鋼を硬くしたら、それで熱処理は終わりではありません。多くの場合、焼入れ後には焼戻しを行います。
30秒でわかる
焼戻しは、焼入れした鋼を再加熱して用途に必要な性質へ調整する熱処理です。
- 焼入れ後に行うのが基本
- 硬さ・靭性・残留応力などを調整
- 温度条件で得られる性質が変わる
- 単純に『軟らかくする処理』ではない

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1. まず結論|焼戻しは焼入れ後の性質調整
焼戻しは、焼入れした鋼を再び適切な温度まで加熱し、その後冷却して、硬さ・靭性・残留応力などを調整する熱処理です。
焼入れで硬くする → 焼戻しで使える性質へ整える。
2. なぜ焼入れしただけではダメなの?
焼入れ直後の鋼は高い硬さを得られる一方、材質や条件によっては靭性が不足したり、大きな残留応力を持ったりします。部品に必要なのは最大硬さではなく、壊れにくさ・耐摩耗性・強度などを含めたバランスです。
3. 焼戻しすると何が変わる?
- 焼入れ後の硬さを用途に合わせて調整する
- 靭性を改善する
- 残留応力の低減を図る
- 寸法や組織の安定化につなげる
一般には焼戻し温度が高くなるほど硬さが低下し、靭性が増す傾向があります。ただし合金鋼では二次硬化など異なる挙動もあるため、すべての鋼で単純な関係になるわけではありません。
焼入れで得られるマルテンサイトは、炭素が鉄の中に過剰に取り込まれた、硬い一方で不安定な組織です。
焼戻しをすると炭素が移動し、温度や保持時間に応じて炭化物(鉄や合金元素と炭素が結びついた粒子)が析出するなど、内部の組織が変化します。
こうした変化によって残留応力の緩和や組織の安定化が進み、硬さや靭性などの性質が変わります。
なお、合金元素を多く含む工具鋼などでは、炭化物の析出などによって硬さが増す二次硬化が起こる場合もあります。
4. 低温側と高温側の焼戻し
- 低温側の焼戻し(例:150〜200℃):高い硬さや耐摩耗性を重視する場合に用いられる温度帯です。
- 高温側の焼戻し(例:550〜650℃):機械構造用鋼などで、強度と靭性のバランスを調整するために用いられる温度帯です。
- 温度例の注意:これらは代表的な温度例であり、すべての鋼種に共通する処理条件ではありません。
具体的な温度は鋼種・必要硬さ・用途・規格で変わるため、温度だけを丸暗記するより何を狙って焼戻すのかを理解することが重要です。
5. 焼戻し条件を決めるときに見るもの
- 鋼種
- 焼入れ後の硬さ
- 要求硬さ
- 必要な靭性・強度
- 部品の形状・寸法
- 使用環境や規格
例えば、工具や測定ゲージのように高い硬さ・耐摩耗性を重視する場合には、低温側の焼戻しを選ぶことがあります。
一方、軸や歯車などで強度と靭性の両立が必要な場合には、高温側の焼戻しを選ぶことがあります。ただし、部品名だけで処理条件は決まりません。
実際の処理では、焼戻し温度・保持時間・冷却方法を組み合わせて管理します。
保持時間は部品の寸法・鋼種・設備条件などによって変わり、すべての部品を一律の時間で処理できるわけではありません。
注意:焼戻ぜい性
鋼種や温度条件によっては、焼戻し中や焼戻し後の冷却過程で、衝撃に対してもろくなる「焼戻ぜい性」が問題となる場合があります。
特に一部の合金鋼では、焼戻し後の冷却速度にも注意が必要です。
この記事の温度例をそのまま現場の作業指示値として使用せず、材質規格・図面・鋼材メーカーの推奨条件・工程標準を優先してください。
6. よくある勘違い|焼戻しは「軟らかくするだけ」ではない
焼戻しでは硬さが下がることがありますが、目的は単なる軟化ではありません。焼入れで得た硬さを活かしながら、部品に必要な靭性や安定性へ近づける処理です。
7. まとめ
- 焼戻しは焼入れ後の鋼を再加熱する処理
- 硬さ・靭性・残留応力などを調整する
- 焼入れと焼戻しはセットで考えることが多い
- 条件は鋼種や用途で変わる
- 目的は必要な性質へ整えること
8. 次回|焼なましとは?
次回は、軟化・加工性改善・応力除去など複数の目的を持つ焼なましを解説します。
金属熱処理の教科書
9. 参考資料
最終技術確認:2026年10月7日|著者:UG|一次情報:JIS G 0201:2023、ISO 4885:2026。焼戻し条件は鋼種・要求特性・前工程を優先してください。

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