SUJ2は、約1%Cと1.5%Crを含む代表的な高炭素クロム軸受鋼です。 ベアリングの内輪・外輪、ボール、ころなど、繰り返し高い接触圧力を受ける部品に広く使われます。
SUJ2のポイントは、単に「硬い鋼」ではありません。球状化焼なましで加工しやすい状態を作り、加工後に焼入れ+低温焼戻しで高硬度化し、さらに非金属介在物・脱炭・組織・残留オーステナイトまで管理して転がり疲労寿命を確保する材料です。
| 分類 | 高炭素クロム軸受鋼 |
|---|---|
| 現行規格 | JIS G 4805:2025 |
| C | 0.95〜1.10% |
| Cr | 1.30〜1.60% |
| 代表的な前処理 | 球状化焼なまし |
| 代表的な仕上げ熱処理 | 焼入れ+低温焼戻し |
| 使用硬さの目安 | 一般的な軸受用途で57〜64 HRC程度 |
| 主な用途 | 軸受内外輪、ボール、ころ、精密回転部品など |
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1. SUJ2とは?特徴を簡単に解説

SUJ2は、転がり軸受で最も代表的な高炭素クロム軸受鋼です。 約1%の高いCで焼入れ後の高硬度を確保し、約1.5%のCrによって焼入性や炭化物の性質を調整しています。
ベアリングでは、ボールやころが軌道面を何百万回・何億回と転がり、狭い接触面に高い圧力が繰り返しかかります。そのためSUJ2には、高い硬さ・耐摩耗性だけでなく、転がり疲労に耐える清浄度と均一な熱処理組織が求められます。
| 評価軸 | 点数 | 見方 |
|---|---|---|
| 焼入性 | 4/5 | Crを含み高硬度化しやすいが、SUJ3・SUJ5の方が厚肉への焼入性は高い |
| 高硬度・耐摩耗性 | 5/5 | 焼入れ+低温焼戻しで軸受に必要な高硬度を得やすい |
| 靭性 | 2/5 | 高炭素・高硬度材のため、衝撃用途では浸炭鋼なども比較 |
| 被削性 | 2/5 | 高炭素材だが、球状化焼なましで加工性を改善する |
| 溶接性 | 1/5 | 高炭素でHAZ硬化・割れリスクが高く、通常は溶接構造材に選ばない |
| 耐食性 | 1/5 | 1.5%Cr程度ではステンレスのような耐食性は得られない |
※点数は材料選定を補助する相対指標で、JISの規格値ではありません。
なぜベアリングにSUJ2が使われる?
軸受の軌道面や転動体では、接触部分に大きな繰返し応力が発生します。SUJ2は焼入れ・焼戻しによって高い硬さと耐摩耗性を得やすく、軸受用に必要な清浄度・組織・表面品質まで規格化できるため、内輪・外輪・ボール・ころの代表材料として使われています。
2. SUJ2の化学成分
現行のJIS G 4805:2025は、転がり軸受に使用する高炭素クロム軸受鋼鋼材を規定しています。SUJ2の代表的な成分範囲は次のとおりです。
| 元素 | 成分範囲(mass%) | 実務での見方 |
|---|---|---|
| C | 0.95〜1.10 | 焼入れ後の高硬度・マルテンサイト・炭化物量に大きく関係 |
| Si | 0.15〜0.35 | 脱酸・強度などに関係 |
| Mn | 0.50以下 | 焼入性に関係。SUJ3はMn・Siを増やし焼入性を高める |
| P | 0.025以下 | 靭性・品質面から低く管理 |
| S | 0.025以下 | 介在物や疲労特性にも関係するため低く管理 |
| Cr | 1.30〜1.60 | 焼入性を高め、炭化物形成・耐摩耗性にも関係 |
| Mo | 0.08以下 | 上限管理される元素。SUJ5ではMoを積極添加して焼入性を高める |
「約1%C+約1.5%Cr」がSUJ2の基本
高いCは焼入れ後の硬さを作り、Crは焼入性を高めながら炭化物の形成にも関わります。ただし、CもCrも多ければよいわけではありません。炭化物の大きさ・分布、オーステナイトへの固溶量、残留オーステナイト、焼入れ割れなどとのバランスが重要です。
3. ミルシートで確認する項目
SUJ2は軸受寿命へ材料品質が直接影響するため、ミルシートでは成分だけでなくHeat No.、供給状態、硬さ、寸法、品質要求まで確認します。JIS G 4805:2025では化学成分だけでなく、全脱炭深さ、硬さ、ミクロ組織、マクロ組織、非金属介在物なども規定対象です。
| 確認項目 | 見る理由 |
|---|---|
| 規格・鋼種 | JIS G 4805 / SUJ2かを確認 |
| Heat No. | 材料札・現物・検査文書のトレーサビリティを確保 |
| C・Cr | 硬さ、焼入性、炭化物状態を考える中心成分 |
| P・S | 品質・介在物・疲労特性の観点で確認 |
| 供給状態 | 圧延まま、球状化焼なましなど後工程に影響 |
| 球状化焼なまし硬さ | 切削・冷間加工性の確認 |
| 脱炭 | 表面硬さ不足や寿命低下につながるため重要 |
| 非金属介在物・清浄度 | 転がり疲労の起点になり得るため重要 |
| 表面きず | 軸受加工後の欠陥や疲労起点を防ぐ |
軸受鋼では「成分が合っている=品質が十分」とは限りません。 硬さ、組織、介在物、脱炭、表面品質まで含めて確認するのがSUJ2の重要なポイントです。
4. 機械的性質と硬さはどう見る?
SUJ2は、加工前の球状化焼なまし状態と、使用時の焼入れ・焼戻し状態で硬さが大きく変わります。 軸受部品では引張強さだけを見るより、硬さ・組織・残留オーステナイト・清浄度をセットで見る方が実務的です。
| 状態 | 硬さの参考値 | 意味 |
|---|---|---|
| 球状化焼なまし材 | 201 HBW以下の公開例 | 切削・冷間加工しやすい状態 |
| 焼入れ+低温焼戻し | 62 HRC以上の技術資料例 | 高硬度・耐摩耗性を得る |
| 一般的な軸受使用硬さ | 57〜64 HRC程度 | 軸受形式・用途・熱処理仕様で設定 |
球状化焼なましは、硬いセメンタイトを粒状に分散させて加工抵抗を下げるために行います。最終熱処理では、その炭化物の一部をオーステナイトへ固溶させてから焼入れし、マルテンサイト主体の高硬度組織を作ります。
硬ければ硬いほど長寿命ではない
軸受寿命は硬さだけでは決まりません。硬さを上げすぎると靭性や割れ感受性とのバランスが問題になり、逆に硬さ不足では塑性変形・摩耗・転がり疲労に不利になります。さらに非金属介在物、炭化物、残留オーステナイト、残留応力、表面粗さなども寿命へ影響します。
5. SUJ2に向いている熱処理
SUJ2の基本工程は「球状化焼なまし → 加工 → 焼入れ → 低温焼戻し」です。 加工前は軟らかく、完成時は高硬度にするという役割分担が重要です。
| 熱処理 | 適性 | 主な目的 | 公開技術資料の条件例 |
|---|---|---|---|
| 球状化焼なまし | ◎ | 炭化物を球状化して硬さを下げ、被削性・加工性を改善 | 760〜800℃付近 |
| 焼ならし | ○ | 前組織調整など | 840〜900℃付近 |
| 焼入れ | ◎ | マルテンサイト化して高硬度を得る | 800〜840℃、油冷の例 |
| 低温焼戻し | ◎ | 硬さを保ちながら応力・組織を調整 | 150〜180℃の例 |
| 浸炭焼入れ | — | 通常は主目的にしない | 母材自体が約1%Cの高炭素鋼 |
上の温度は公開技術資料の代表例で、すべてのSUJ2部品に固定適用する値ではありません。部品寸法、炉、保持時間、冷却能力、要求硬さ、変形量などで条件を決めます。
なぜ球状化焼なましが必要?
SUJ2は約1%Cを含むため、そのままでは炭化物が加工を邪魔しやすく、高い加工力や工具摩耗につながります。球状化焼なましでは、板状・網状になりやすいセメンタイトを細かな球状炭化物として分散させ、フェライト母相の中で加工しやすい状態に整えます。
熱処理の基本は金属熱処理の教科書、硬さと焼入性の違いは硬さと焼入性は何が違う?で確認できます。
6. SUJ2は溶接できる?
SUJ2は、一般に溶接構造用として選ぶ材料ではありません。 約1%CとCrを含む高炭素・高焼入性鋼なので、溶接熱影響部が非常に硬化しやすく、低温割れや熱影響による組織変化のリスクが大きいためです。
- HAZが急冷されると高硬度マルテンサイトになりやすい
- 高炭素のため割れ感受性が高い
- 溶接熱で球状化組織・焼入焼戻し組織が局所的に変化する
- 完成軸受部品では寸法精度・残留応力・硬さ分布への影響が大きい
補修などで溶接が避けられない場合は、予熱・後熱・溶接材料・拘束・水素管理を個別に検討します。ただし、通常の材料選定では「溶接して使うSUJ2」ではなく、別材料や別接合法を検討する方が合理的です。
7. 被削性・研削性・加工上の注意
SUJ2は最終的に高硬度で使うため、加工は熱処理前と熱処理後で分けて考える必要があります。熱処理前は球状化焼なましで軟化させて旋削・冷間鍛造などを行い、焼入れ・焼戻し後は研削・超仕上げで軌道面を仕上げます。
| 工程 | 確認ポイント |
|---|---|
| 素材受入れ | Heat No.、成分、球状化状態、硬さ、脱炭、表面きず |
| 切削・冷間加工 | 球状化炭化物、工具摩耗、加工割れ、加工代 |
| 焼入れ | 過熱、焼入れ不足、割れ、変形、脱炭 |
| 焼戻し | 硬さ、残留オーステナイト、寸法安定性 |
| 研削 | 研削焼け、研削割れ、表面残留応力、寸法 |
| 最終仕上げ | 軌道面粗さ、真円度、うねり、表面欠陥 |
8. 火花試験ではどう見える?
SUJ2の実際の火花は、4K動画「火花試験標準片 SUJ2(グループK)」で確認できます。JIS G 0566に準拠した標準片の動画なので、S45CやSK105、SCM440などと連続比較すると違いを理解しやすくなります。
SUJ2の火花の特徴
| 観察項目 | SUJ2の特徴 |
|---|---|
| 炭素破裂 | 多く、活発 |
| 流線 | 細く見える |
| 花粉 | 中央部から先端にかけて見られる |
| 根本の破裂 | 約0.9%C鋼と比べて、すっきりして見える傾向 |
| 総合判断 | 高炭素鋼らしい活発な破裂に、Crを含むSUJ2特有の見え方を組み合わせて標準片と比較 |
火花試験だけでSUJ2を確定しないことが重要です。 約1%CのSK105など高炭素鋼とも比較し、材料表示、ミルシート、Heat No.、必要に応じた成分分析と組み合わせます。
9. 金属組織と軸受鋼の管理ポイント
SUJ2では、加工前と焼入れ後で組織が大きく変わります。球状化焼なまし状態ではフェライト母相に球状炭化物が分散し、焼入れ・焼戻し後はマルテンサイト主体に残留オーステナイトと未溶解炭化物が共存する複雑な組織になります。
| 状態 | 代表的な組織 | 見るポイント |
|---|---|---|
| 球状化焼なまし | フェライト+球状炭化物 | 球状化率、炭化物サイズ・分布、硬さ |
| 焼入れ後 | マルテンサイト+残留オーステナイト+未溶解炭化物 | 硬さ、炭化物、残留オーステナイト、焼入れ不足 |
| 低温焼戻し後 | 焼戻しマルテンサイト主体 | 硬さ、残留応力、寸法安定性 |
| 表面 | 母材組織+加工・研削影響 | 脱炭、研削焼け、研削割れ、粗さ |
軸受寿命では「清浄度」が重要
転がり接触では、材料内部の非金属介在物が応力集中の起点となり、内部起点のはく離につながることがあります。特に酸化物系介在物は転がり疲労寿命へ悪影響を与えることが知られています。そのため軸受鋼では、一般構造用鋼以上に鋼中の清浄度が重要です。
残留オーステナイトはゼロならよい?
焼入れ後のSUJ2には残留オーステナイトが残ることがあります。残留オーステナイトは軟らかい相で、経時変化による寸法変化にも関係しますが、使用条件によっては靭性や耐異物性に関係するため、単純に「ゼロが正解」とは言えません。要求寿命・温度・寸法安定性に合わせて熱処理で管理します。
組織の基礎は金属組織図鑑でも確認できます。
10. 鋼材の形状・サイズ・流通

SUJ2は、ベアリング部品の製造方法に合わせて棒鋼、線材、鋼管、帯鋼、鍛造素材などで流通します。完成品では内輪・外輪、ボール、ころなどへ加工されます。
| 形状 | 主な使い方 | 受入れ時の確認 |
|---|---|---|
| 棒鋼 | 軌道輪、ころ、機械部品 | 径、表面きず、脱炭、球状化状態 |
| 線材 | ボール・小物部品素材 | 径、球状化、冷間加工性 |
| 鋼管 | 軌道輪素材 | 肉厚、偏肉、表面・内部品質 |
| 帯鋼・鋼板 | 薄物軸受部品・特殊用途 | 板厚、表面、硬さ、加工性 |
| 鍛造素材 | 大型軌道輪など | 鍛造比、組織、表面・内部品質 |
同じSUJ2でも寸法・形状・製造方法によって、必要な焼入性や品質管理項目が変わります。材料購入時は鋼種だけでなく、製品形状・寸法・供給状態・検査要求まで指定します。
11. 主な用途と似た材料との選び分け
SUJ2は、一般的な小形〜中形ベアリングの軌道輪・転動体を中心に、高硬度・耐摩耗性・転がり疲労強度が必要な精密部品で使われます。
| 材料 | 特徴 | 選び分け |
|---|---|---|
| SUJ2 | 約1%C+1.5%Crの代表的軸受鋼 | 小形〜中形軸受の標準的な選択肢 |
| SUJ3 | Mn・Siを増やしてSUJ2より焼入性を向上 | 比較的肉厚の軸受で比較 |
| SUJ5 | SUJ3系にMoを加え、さらに焼入性を向上 | 厚肉・大形軸受で比較 |
| SCM415 | 低炭素Cr-Mo鋼+浸炭 | 高硬度表面と粘い芯を必要とし、衝撃荷重も考える場合 |
| SUS440C | 高炭素マルテンサイト系ステンレス | SUJ2より耐食性が必要な軸受で比較 |
| SAE 52100 | 海外で代表的な高炭素Cr軸受鋼 | 成分は近いが、規格要求を確認して単純同一視しない |
SUJ2とSCM415は何が違う?
SUJ2は母材自体が約1%Cで、焼入れによって部品全体を高硬度化しやすい材料です。SCM415は低炭素の芯を残し、浸炭で表面だけ高炭素化して硬くする材料です。均一な高硬度を狙うか、硬い表面と粘い芯を両立するかが大きな選び分けです。
12. FAQ・参考資料
Q. SUJ2は何に使う材料?
代表用途は転がり軸受の内輪・外輪、ボール、ころです。高硬度・耐摩耗性・転がり疲労強度を必要とする精密部品にも使われます。
Q. SUJ2の焼入れ硬さは?
公開技術資料では焼入れ+150〜180℃程度の低温焼戻しで62 HRC以上の例があります。一般的な軸受用途では57〜64 HRC程度が使われますが、部品・用途・熱処理仕様で変わります。
Q. SUJ2はなぜ球状化焼なましする?
約1%Cを含む高炭素材なので、加工前に炭化物を球状化して硬さを下げ、切削・冷間加工しやすくするためです。球状化状態は最終熱処理の安定性にも関係します。
Q. SUJ2は錆びにくい?
いいえ。Crは1.30〜1.60%ですが、ステンレス鋼のような耐食性を得る量ではありません。水分や結露、腐食環境では防錆油・表面処理・保管管理が必要です。
Q. SUJ2とSUJ3の違いは?
SUJ3はSUJ2よりMn・Siを多くし、焼入性を高めた鋼種です。肉厚が増えてSUJ2では内部まで十分な硬さを得にくい場合に比較します。
主な技術確認先
- JIS G 4805:2025 高炭素クロム軸受鋼鋼材
- 軌道輪と転動体の材料・SUJ2の成分と用途
- 高炭素クロム軸受鋼の熱処理・硬さ・焼入性データ
- SUJ2の球状化焼なまし硬さ・清浄度データ
- SUJ2のマルテンサイト・残留オーステナイト・炭化物の組織解析
- 軸受鋼の非金属介在物と転がり疲労寿命
- JIS G 0566 SUJ2火花特徴資料
- SUJ2 火花試験標準片 4K動画
最終技術確認:2026年10月3日
関連:金属材料図鑑|金属熱処理の教科書|金属組織図鑑|SCM415|S45C


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