『硬い鋼』と『焼入性が良い鋼』は同じ意味ではありません。硬さはその場所の性質、焼入性は焼入れでどこまで深くマルテンサイト化しやすいかを表す考え方です。
硬さとは?
硬さは、材料表面の局所的な押込み変形などに対する抵抗を、決められた試験方法で数値化した機械的性質です。ロックウェル、ビッカース、ブリネルなどは試験原理・荷重・圧子・尺度が異なるため、数値だけを無条件に横比較しません。 熱処理では表面硬さだけでなく、断面内の硬さ分布を見ることも重要です。
焼入性とは?
焼入性(hardenability)は、規定されたオーステナイト化・冷却条件のもとで、鋼がどの深さまで硬化組織を形成しやすいかを表す性質です。「焼入れ後の最高硬さ」そのものではありません。 低炭素の合金鋼は焼入性が高くても、十分にマルテンサイト化した部分の最高硬さが高炭素鋼より低い場合があります。
例で理解する
同じ表面硬さが得られても、大径部品の中心まで硬化する鋼と、表面付近しか硬化しない鋼があります。後者は硬さが低いのではなく、焼入性が低いと表現します。
何が焼入性を左右する?
焼入性は、オーステナイト化時の化学成分(炭素・合金元素)とオーステナイト粒径に強く左右されます。さらに実部品で得られる硬化深さは、部品寸法・形状・冷却媒体・攪拌・熱伝達条件にも左右されます。つまり、焼入性は材料側の性質、実際の硬さ分布は材料+部品+焼入条件の結果として考えると整理しやすくなります。
ジョミニー一端焼入れ試験
焼入性を比較する代表的な方法がジョミニー一端焼入れ試験です。現行のISO 642:2024では、直径25 mm・長さ100 mm以上の試験片を用いる一端焼入れ法を規定しています。国内ではJIS G 0561:2020が現行です。焼入端からの距離ごとに硬さを測定してジョミニー曲線を作り、硬さの低下が緩やかな鋼ほど焼入性が高いと評価します。
覚え方
硬さ=その場所の抵抗値、焼入性=焼入れで硬化組織を深く得やすい材料特性です。表面硬さが同じでも中心部の硬さ分布は異なることがあります。逆に焼入性が高くても、炭素量が低ければ最高硬さが高いとは限りません。
まとめ
第23回の要点は、用語だけを暗記せず、温度・炭素量・時間・冷却速度と組織の関係で考えることです。実際の熱処理条件は鋼種・寸法・前組織・設備・仕様で変わるため、材質規格と作業標準を優先してください。
深掘り: 炭素量で鋼はどう変わる? / CCT・TTT線図とは? / 水・油・空気で冷やす違い
最終確認:2026年10月2日|著者:UG|ISO 642:2024がジョミニー試験の現行国際規格、JIS G 0561:2020が国内の現行一端焼入れ試験規格であることを確認しました。硬さと焼入性、材料側の焼入性と実部品の硬さ分布を分けて再監査済みです。
参考
- 日本規格協会|JIS G 0561:2020 鋼の焼入性試験方法(一端焼入方法)
- ISO 642:2024|Steel — Hardenability test by end quenching (Jominy test)
- ASM Handbook|Hardness and Hardenability of Steels
- ASM|Hardness and Hardenability
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