第4章|4-2 データムとは?

データムは、幾何公差を評価するときの「基準」をつくるための考え方です。ただし、図面でAやBの記号が付いた実物の面そのものが、そのままデータムになるわけではありません。実物のデータム形体から、規則に従って理論的に正確な平面・直線・点などの基準を設定します。

幾何公差を正しく読むには、「どこがデータム形体か」「どんな基準が設定されるか」「A・B・Cをどの順番で使うか」を分けて考えるのが重要です。この記事では、現場の検査と技能検定の両方で使えるように、データムの基本から図面の読み方まで順番に整理します。

目次 タップで開閉
  1. 1. 30秒でわかるポイント
  2. 2. データム・データム形体・実用データム形体の違い
  3. 3. 面・穴・軸では、できるデータムが違う
  4. 4. データム系とは? A・B・Cの優先順位を読む
  5. 5. 現場ではこう考える|A・B・Cで部品を基準化する例
  6. 6. データムが必要な公差・必要ない公差
  7. 7. 検査ではデータムをどう再現する?
  8. 8. よくある間違い
  9. 9. 技能検定につながるポイント
  10. 10. データムを読む5ステップ
  11. 11. よくある質問
  12. 12. 確認問題
  13. 13. 参考資料・一次情報
  14. 14. まとめ
  15. 15. 関連記事

1. 30秒でわかるポイント

  1. データム形体=データムを設定するために指定された実物側の形体
  2. データム=データム形体から設定される理論的に正確な基準
  3. 実用データム形体=定盤・ゲージ・マンドレルなど、検査で基準を実現するために使う十分精密な形体
  4. データム系=A・B・Cなど複数のデータムを組み合わせた基準体系
  5. 複数データムは、公差記入枠の左から右へ優先順位が高い順に読む

最重要:「Aと書いてある面=完全に平らな基準面」ではありません。実物には凹凸やうねりがあるため、実物の形体と理論上の基準は分けて考えます。

データム形体・データム・実用データム形体・データム系の違いを図で整理した図解

2. データム・データム形体・実用データム形体の違い

この3つを区別できると、データムの理解が一気に進みます。

用語意味現場でのイメージ
データム形体データムを設定するために図面で指定された実物の面・穴・軸など部品の底面、基準穴、基準軸など
データムデータム形体から設定される理論的に正確な幾何学的基準理論上の基準平面、基準軸直線、中心平面など
実用データム形体データムを実際の検査・組付けで再現するための十分精密な形体定盤、ピンゲージ、マンドレル、Vブロック、治具など

たとえば底面Aがデータム形体なら、底面Aそのものの凹凸を「完全な基準」とみなすのではなく、定盤などへ適切に接触させることで基準となるデータム平面を設定します。

データム形体、理論上のデータム、検査で使う実用データム形体の違いを比較した図解

3. 面・穴・軸では、できるデータムが違う

データムは「面だけ」ではありません。データム形体の種類によって、設定される理論上の基準も変わります。

データム形体の例設定される基準の例検査での再現イメージ
平面データム平面定盤・治具面へ接触させる
穴データム軸直線ピン・マンドレル等で穴から軸を設定する
円筒軸データム軸直線精密な受け・穴・Vブロック等で軸を設定する
向かい合う2面データム中心平面2面から中心となる理論平面を設定する

つまり、図面上で「A」という同じ文字を見ても、何にAが付いているかによって基準の意味は変わります。まずデータム記号の指示先を確認してください。

平面・穴・円筒軸・向かい合う2面から設定されるデータムの違いを図で示した図解

4. データム系とは? A・B・Cの優先順位を読む

1つのデータムだけでは、部品の向きや位置を十分に決められないことがあります。そのときに複数のデータムを組み合わせて使うのがデータム系です。

たとえば公差記入枠の後半が A|B|C なら、一般的には次の順番で基準を設定します。

順位呼び方役割のイメージ
1優先データム A最初に部品の大きな姿勢を決める基準
2第2データム BAで残った動きの一部をさらに決める
3第3データム Cさらに残った動きを決め、基準体系を完成させる

三次元空間では部品には並進3方向+回転3方向の自由度があります。データム系は、それらを必要な順番で拘束して「どの姿勢・位置を基準に評価するか」を決める考え方です。

注意:A・B・Cというアルファベット自体が優先順位を保証するわけではありません。読むべきなのは公差記入枠に記載されたデータムの順番です。左側ほど優先順位が高くなります。

5. 現場ではこう考える|A・B・Cで部品を基準化する例

直方体に近い部品を例にすると、次のように考えると理解しやすくなります。

  1. 底面Aを定盤などへ当てて、部品の基本姿勢を決める
  2. 側面Bを基準側へ当てて、Aだけでは決まらない向きを追加で決める
  3. 端面Cを基準へ当てて、残った位置を決める

この状態を基準に、穴の位置度、側面の直角度、上面の平行度などを評価します。

ただし、実際の拘束のされ方はデータム形体の種類や図面指示によって変わります。「Aは必ず3点、Bは必ず2点、Cは必ず1点」と機械的に暗記するより、優先順位に従って必要な自由度を順に拘束すると理解する方が安全です。

底面A、側面B、端面Cの順に部品を基準化して位置度・直角度・平行度を評価する流れの図解

6. データムが必要な公差・必要ない公差

前の記事「幾何公差とは?」で説明した通り、幾何公差には形状・姿勢・位置・振れなどの分類があります。データムとの関係は、まず次のように整理すると分かりやすいです。

分類代表例データムとの関係
形状公差真直度、平面度、真円度、円筒度基本的に対象形体そのものの形を評価するため、データムを使わない
姿勢公差平行度、直角度、傾斜度何に対して平行・直角・指定角度かを決めるため、基準となるデータムが重要
位置公差位置度など対象の位置・方向を何に対して決めるかという基準が重要。実際の指示は図面に従う
振れ公差円周振れ、全振れ回転の基準となる軸などを設定するため、データムが重要

特に平面度と平行度は混同しやすい組み合わせです。平面度は「その面自体がどれだけ平らか」を見るためデータム不要。一方、平行度は「基準に対してどれだけ平行か」を見るためデータムが必要です。

7. 検査ではデータムをどう再現する?

図面上のデータムは理論的な基準なので、検査ではその基準を物理的または数学的に再現します。代表的な方法は次の通りです。

方法使い方の例注意点
定盤・治具基準面を接触させて姿勢を作るゴミ・バリ・打痕・過大なクランプ力で基準が変わる
ピンゲージ・マンドレル基準穴から軸を再現する穴の形状誤差や嵌合条件を無視しない
Vブロック等円筒形体の軸を安定して扱う接触条件と回転条件を一定にする
三次元測定機測定点から基準平面・基準軸などを構築し座標系を設定する測定点の取り方や評価方法が違えば結果も変わり得る

現場では「測定器の数値だけ」を見るのではなく、図面が要求しているデータム系を検査側で正しく再現できているかを先に確認することが重要です。

定盤・治具、ピンゲージ・マンドレル、Vブロック、三次元測定機でデータムを再現する方法の図解

8. よくある間違い

  1. データム記号が付いた面=完全な基準面だと思う
    → 実物には形状誤差があります。実物のデータム形体と理論上のデータムは別です。
  2. A・B・Cなら必ずアルファベット順が優先順位だと思う
    → 優先順位は公差記入枠の左から右で読みます。
  3. 部品を強くクランプすれば正しい基準が出ると思う
    → 変形させるほど締めると、本来の状態とは違う基準を作る可能性があります。
  4. 測定方法が違っても同じ基準になると思う
    → 治具・定盤・ゲージ・三次元測定機では、基準の実現方法が異なります。図面意図と整合しているか確認が必要です。
  5. 公差値だけを見てデータムを読まない
    → 同じ0.05でも、どの基準に対して評価するかで意味は大きく変わります。

9. 技能検定につながるポイント

技能検定や図面読解では、記号の名前だけでなく「何を基準に、何を評価しているか」を説明できることが重要です。

  1. データム記号がどの面・穴・軸に付いているか確認する
  2. 公差記入枠のデータムを左から右へ読む
  3. 対象の幾何公差が形状・姿勢・位置・振れのどれか判定する
  4. 「基準Aに対して、この面の直角度を○○以内にする」のように文章で言い換える
  5. 検査では、その基準を定盤・マンドレル・治具・三次元測定機などでどう再現するか考える

10. データムを読む5ステップ

  1. 対象要素:どの面・穴・軸の公差か
  2. 幾何特性記号:平行度、直角度、位置度、振れなど何を規制するか
  3. 公差値:どこまでズレを許すか
  4. データム:何を基準に評価するか
  5. 優先順位:A・B・Cなどをどの順で基準化するか

次の記事「公差域とは?」まで理解すると、幾何公差の記号を見たときに「基準」と「許されるズレの範囲」をセットで読めるようになります。

対象要素、幾何特性記号、公差値、データム、優先順位の順に図面を読む5ステップの図解

11. よくある質問

データム形体とデータムは同じものですか?

同じではありません。データム形体は部品上の実物の面・穴・軸などで、データムはそこから規則に従って設定される理論的に正確な基準です。

A・B・Cなら必ずAが最優先ですか?

アルファベット自体では決まりません。公差記入枠に指定されたデータムの順番を左から右へ読みます。

平面度にもデータムが必要ですか?

基本的には不要です。平面度は対象面そのものの形状を規制します。平行度や直角度のように基準に対する姿勢を規制する場合は、データムとの関係を確認します。

12. 確認問題

Q1. 平面度を評価するとき、必ずデータムが必要?

答え:いいえ。平面度は対象面そのものの形を評価する形状公差なので、基本的にデータムを使いません。

Q2. 公差記入枠に「B|A」と書かれていたら、どちらが優先?

答え:Bです。データムの優先順位は、公差記入枠の左から右へ読みます。

Q3. 穴にデータム記号が付いている場合、穴の内面そのものが理論上のデータム?

答え:そのままではありません。穴という実物のデータム形体から、規則に従ってデータム軸直線などの理論的基準を設定します。

13. 参考資料・一次情報

最終確認:2026年10月1日|著者:UG
ISO 5459は2024年版が現行です。JIS B 0022:1984も現時点では有効ですが、対応国際規格は旧ISO 5459:1981で、日本規格協会の見直し資料では将来の廃止方向が示されています。「実用データム形体」などJIS側の既存用語を学習するときと、現在の国際規格ISO 5459:2024を読むときは、版と用語体系を混同しないようにしてください。実務では対象図面・顧客仕様の指定規格を優先します。

14. まとめ

  • データム形体は実物側、データムはそこから設定される理論的基準
  • 実用データム形体は、検査で基準を再現する定盤・ゲージ・マンドレルなど
  • 面・穴・軸によって、設定されるデータム平面・軸直線・中心平面などが変わる
  • 複数データムは公差記入枠の左から右へ優先順位を読む
  • 形状公差は基本的にデータム不要、姿勢・位置・振れでは基準の読み取りが重要
  • 現場では「図面と同じ基準をどう再現するか」まで考えて初めて正しい検査になる

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