第6章|6-1 圧縮着火と圧縮比

ディーゼルエンジンのシリンダ内へ燃料を噴射し、圧縮着火が始まる様子を示した高精細なカットモデル。

ディーゼルエンジンは、シリンダ内へ取り込んだ空気を強く圧縮して温度を上げ、そこへ燃料を噴射して自己着火させる圧縮着火機関です。

スパークプラグで火花を飛ばすガソリン機関との最大の違いを、圧縮比と噴射時期の関係から理解します。

30秒でわかる ディーゼルエンジンは、空気を圧縮して高温にし、後から噴射した軽油を自ら燃え始めさせる仕組みです。

  • 火花を使わず、高温の圧縮空気で着火します。
  • 圧縮比は「空気が入る最大の容積÷最小の容積」です。
  • 17:1なら最大容積は最小容積の17倍です。
  • 圧縮比と、検査時に測る圧縮圧力は別の数値です。

初心者は「空気を圧縮→軽油を噴射→着火→ピストンが動く」の順序から覚えると理解しやすくなります。

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1. ディーゼルはなぜ火花なしで着火する?

火花がなくても着火する理由は、圧縮で熱くなった空気に燃料を噴射するためです。 これを圧縮着火と呼びます。

一般的なガソリンの火花点火エンジンは、空気と燃料を混ぜてスパークプラグの火花で燃焼を始めます。一方、ディーゼルエンジンでは吸気時に主に空気を取り込み、圧縮後の高温の空気へ軽油を噴射します。

覚えるポイント: 圧縮するのは基本的に空気、着火のきっかけは燃料噴射です。「軽油そのものを先に強く圧縮している」と考えないでください。

2. 圧縮着火の4行程と燃料噴射

ディーゼルエンジンの4行程。吸気、圧縮、燃焼・膨張、排気におけるピストンの動き、吸排気弁、燃料噴射を表したシリンダ断面図。
4ストロークディーゼルエンジンの吸気・圧縮・燃焼/膨張・排気の動き(仕組みを示した模式的な断面イラスト)

4行程のうち、圧縮行程で空気を高温にし、膨張行程にかかる前後で噴射・着火・燃焼が進みます。 噴射してから着火するまでにはわずかな時間差があります。

  • ①吸気:ピストンが下がり、主に空気をシリンダ内に吸い込みます。
  • ②圧縮:ピストンが上がって空気の体積が減り、圧力・温度が上昇します。
  • ③噴射・着火・膨張:上死点(ピストンが最も上がった位置)付近で燃料を噴射します。燃料は蒸発して空気と混ざり、自己着火します。燃焼で生じた圧力がピストンを押し下げます。
  • ④排気:燃焼後のガスを排気弁から外へ出します。

燃料を噴射しても、その瞬間にすべての燃料が一斉に燃えるわけではありません。燃料が蒸発し、空気と混ざって着火するまでの時間を着火遅れと呼び、噴射時期・噴霧状態・空気温度などが燃焼音や排出ガスに影響します。

3. 圧縮比とは?計算式と17:1の例

圧縮比の計算例。下死点の全容積510mLと上死点のすきま容積30mL、行程容積480mLを同じシリンダで比較し、圧縮比17:1を示す。
圧縮比17:1の計算例(行程容積480mL、すきま容積30mLは学習用の仮定値)

圧縮比は、ピストンが最も下にあるときのシリンダ全容積を、最も上にあるときの容積で割った値です。 比率なので単位は付きません。

圧縮比=(行程容積+すきま容積)÷すきま容積。行程容積はピストンが動いて押しのける体積、すきま容積は上死点でも残る空間の体積です。

計算例|1気筒480mL・すきま容積30mLの場合

  • 行程容積:480mL(仮定)
  • 上死点で残る容積:30mL(仮定)
  • 下死点での全容積:480+30=510mL
  • 圧縮比:510÷30=17:1

この17:1は計算方法を学ぶための仮定値であり、特定車種の実測値ではありません。なお、実在の量産ディーゼルには圧縮比14.0:1の公表例もあります。機種ごとに設計値が異なります。

注意: 「排気量480mLだから圧縮比は480÷30=16:1」と計算すると誤りです。下死点の全容積には上死点で残る30mLも含めます。

4. 圧縮比と圧縮圧力は別物

圧縮比は最大容積と最小容積から求める単位のない比率。圧縮圧力は燃料噴射を停止し、クランキング中に圧力計で測定する値であることを示すディーゼルエンジンの図解。
圧縮比は容積から決まる設計値、圧縮圧力は指定条件で測る測定値。圧力測定は対象エンジンの整備手順に従います。

圧縮比はエンジン形状から決まる設計上の比率、圧縮圧力は回転させたときに実際に発生する圧力です。 両者は関係しますが、同じものではありません。

比較項目圧縮比圧縮圧力
意味最大容積÷最小容積圧縮行程で到達する圧力
単位なし(例:17:1)kPa・MPaなど
決まり方ピストンや燃焼室の形状気密性・温度・回転速度・バルブタイミングなど
点検での扱い型式ごとの設計仕様を確認指定条件で測定して基準と比較

例えば、設計上の圧縮比が同じでも、ピストンリングやバルブから空気が漏れると圧縮圧力が低下する場合があります。反対に、圧縮圧力の数値だけから圧縮比を逆算して断定することもできません。

圧縮圧力の合否基準と測定手順は機種ごとに異なります。測定時のクランキング回転速度、機関温度、測定器、燃料噴射停止条件などを含め、必ず対象の整備書を確認してください。

5. ガソリンエンジンとの違い

最大の違いは、燃焼を何で始めるかです。 一般的なガソリンエンジンは火花点火、通常のディーゼルエンジンは圧縮着火です。

項目一般的なガソリン火花点火式通常のディーゼル圧縮着火式
主な着火方法スパークプラグの火花高温圧縮空気で燃料が自己着火
圧縮するもの空気と燃料の混合気、または燃料噴射前の空気(方式による)主に空気
燃料供給吸気側噴射・筒内直接噴射など圧縮後期の燃焼室へ燃料噴射
補助装置点火プラグを通常燃焼で使用機種によって冷間時にグロープラグを利用

噴射方式や燃焼方式には例外・派生方式があります。ここでは一般的な火花点火式と通常のディーゼル圧縮着火式の基本原理を比べています。

6. 圧縮比が高ければ高性能?

圧縮比は高ければ高いほど無条件によい、とは言えません。 熱効率に有利な面がある一方、始動性・機械強度・排出ガス・燃焼騒音などとの両立が必要です。

圧縮比を高くすると一般に圧縮末期の温度上昇に寄与しますが、エンジンの性能は燃料の着火性、噴射制御、過給、燃焼室形状などにも左右されます。特定の圧縮比を「最適値」と決めつけることはできません。

実例として、2012年に公表されたSKYACTIV-D 2.2は圧縮比14.0:1を採用しました。低い圧縮比による冷間始動・燃焼安定性の課題に対し、噴射とバルブ制御を工夫した事例です。これは当該エンジンの設計例であり、すべてのディーゼルにその圧縮比が適するという意味ではありません。

混同しやすい点: 圧縮比を変えても燃料噴射や過給・排気後処理の条件が変われば、NOx(窒素酸化物)やPM(粒子状物質)の出方も変化します。圧縮比の数字だけで排ガス性能を判定しないでください。

7. 始動不良の点検で確認する順序

始動しないときは、圧縮比の数字を疑う前に、回転・温度・燃料・気密の条件を順に切り分けます。 圧縮比は設計値であり、日常点検で変動を測る項目ではありません。

  • ①始動時の回転:バッテリー電圧やスターター作動、回転速度の不足がないかを確認します。
  • ②冷間時の補助:対象機種にグロープラグがあれば、警告表示・制御・通電を整備書に従って確認します。
  • ③燃料供給:燃料残量、燃料系の警告、フィルターや水混入の可能性、診断コードを確認します。
  • ④吸気・センサー:吸気通路、吸気温・冷却水温などの読み値を確認します。
  • ⑤圧縮状態:前項で原因が絞れない場合、適切な測定器と手順で圧縮圧力やシリンダ間差を検査します。

例えば「寒い朝だけ始動が悪い」という症状は、始動回転の低下やグロー系の不調、低温による着火性の低下など、複数の原因で起こり得ます。症状だけで圧縮不良と断定しないことが大切です。

安全上の注意: コモンレールなどの高圧燃料配管を運転中や圧力が残る状態で緩めないでください。高圧燃料の噴出は重大なけがにつながります。実測・分解は対象型式の整備手順と安全措置に従ってください。

資格学習では、圧縮比=容積の比/圧縮圧力=測定される圧力を区別して説明できるようにすると、問題文の取り違えを減らせます。

8. よくある質問(FAQ)

Q. ディーゼルにはスパークプラグがないのですか?
通常の圧縮着火ディーゼルは、燃焼開始にスパークプラグを使いません。高温にした空気へ燃料を噴射し、自己着火させます。

Q. グロープラグは点火プラグと同じですか?
違います。グロープラグは主に冷間始動や暖機中の燃焼を助ける加熱装置です。燃焼を毎回火花で開始するものではありません。

Q. 圧縮比が17:1なら圧力は17MPaですか?
いいえ。17:1は容積の比で、17MPaという圧力を意味しません。圧縮圧力は条件を定めて別途測定します。

Q. 圧縮比が低いディーゼルは始動できないのですか?
いいえ。圧縮比は始動性の一要素ですが、燃料噴射制御やグローなどを組み合わせて成立させた量産エンジンがあります。

Q. 圧縮比は排気量だけで計算できますか?
できません。排気量に加え、上死点で残るすきま容積が必要です。

9. 一次情報・参考資料

本文の基本原理と実例は、以下の一次・公式情報を確認して再構成しています。最終確認日:2026年10月8日。

※ここで紹介した計算例は学習用の仮定値です。機種固有の圧縮比、圧縮圧力、調整値、検査・交換基準はメーカー・型式で異なります。実作業では対象機種の整備書・サービスデータを優先してください。

10. まとめ

  • ディーゼルは、主に空気を圧縮し、その高温空気へ燃料を噴射して自己着火させる機関です。
  • 圧縮比は(行程容積+すきま容積)÷すきま容積で求める、単位のない比率です。
  • 圧縮比と圧縮圧力は別物です。後者の測定値は気密や測定条件にも左右されます。
  • 始動不良は回転速度・グロー・燃料・吸気・圧縮の順に原因を切り分けます。

次に読む:ディーゼルの原理を押さえたら、エンジンの各構成部品と点検のつながりを教科書TOPから確認できます。

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