公差域とは、対象となる形体が「この領域の中に入っていれば合格」と判断するための、幾何学的な許容領域です。 幾何公差を読むときは、公差値の数字だけでなく、どの形体が・どんな形の領域に・どの基準に対して入るのかまで理解することが重要です。
先に結論:「0.05 mm」という同じ公差値でも、平面度・真円度・円筒度・位置度では、公差域の形も評価対象も異なります。
30秒でわかるポイント
- 平面度:2つの平行平面の間
- 真円度:同一断面上の2つの同心円の間
- 円筒度:2つの同軸円筒面の間
- 位置度:穴の軸線などでは、⌀記号付きなら円筒状の公差域になる代表例がある
- 公差域は測定方法そのものではない。図面で許される幾何学的領域を表す
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公差域とは?
幾何公差では、実際に加工された面・線・軸線・中心面などが、理論上どこまでずれてよいかを「領域」で規制します。この許される領域が公差域(tolerance zone)です。
たとえば平面度0.05 mmなら、対象面全体が0.05 mmだけ離れた2つの平行平面の間に収まることを考えます。ここで重要なのは「測定値が0.05以下なら何でもよい」という意味ではなく、対象形体全体が定義された公差域内に収まることです。
つまり図面を読むときは、最初に「この記号の公差域は何の形か」をイメージすると理解しやすくなります。
なぜ「公差値」だけでは足りないのか
幾何公差は、同じ数値でも規制している内容が異なります。たとえば0.05 mmという数字だけを見ても、対象が面なのか、断面の円なのか、円筒面全体なのか、穴の軸線なのかで意味が変わります。
覚え方:「数値」より先に公差域の形を考える。次に対象形体、最後にデータムとの関係を見る。
この順番で読むと、幾何公差の記号を丸暗記するより、図面問題や現場の測定条件に対応しやすくなります。
代表的な公差域を一覧で比較
| 幾何特性 | 主な対象 | 代表的な公差域 | データム |
|---|---|---|---|
| 真直度 | 線・母線・軸線など | 2直線の間、2平面の間、円筒内など。指示対象・記号で変わる | 通常不要 |
| 平面度 | 面 | 2つの平行平面の間 | 不要 |
| 真円度 | 円形断面 | 2つの同心円の間 | 不要 |
| 円筒度 | 円筒面全体 | 2つの同軸円筒面の間 | 不要 |
| 平行度 | 面・線・軸線など | 基準に平行な2平面の間など | 必要 |
| 直角度 | 面・線・軸線など | 基準に90°の2平面の間、円筒内など | 必要 |
| 位置度 | 点・中心・軸線・中心面など | 円、球、円筒、2平面など。指示方法で変わる | 通常必要 |
| 輪郭度 | 線・面の輪郭 | 理論輪郭を基準にした2境界の間 | 指示内容による |
※上表は理解用の代表例です。実際の公差域は、対象形体・⌀記号・データム・TED(理論的に正確な寸法)・修飾記号などの指示によって変わります。
公差記入枠は「何を」「どの領域に」入れる指示か
公差記入枠を見るときは、次の順序で分解すると理解しやすくなります。
- 幾何特性記号:平面度・位置度・直角度など、何を規制するか
- 公差値:公差域の幅・直径などがどれだけか
- ⌀などの記号:公差域が円・円筒になるかなどを判断する手掛かり
- データム:A・B・Cなど、姿勢や位置を決める基準があるか
- 対象形体:引出線や寸法線の付け方から、面・軸線・中心面など何が規制されるかを確認
特に位置度では、TEDで示された理論的に正しい位置を中心として公差域が設定されます。穴軸線に⌀0.10の位置度が指示された代表例なら、理論位置を中心とする直径0.10 mmの円筒状公差域を考えます。
0.05 mmでも意味が変わる:具体例
例1|平面度 0.05 mm
対象面全体が、距離0.05 mmの2つの平行平面の間に収まる必要があります。データムは使わず、対象面そのものの形状を規制します。
例2|真円度 0.05 mm
評価する円形断面が、半径差0.05 mmとなる2つの同心円の間に収まることを考えます。円筒面全体ではなく、各断面の円形形状を見る点が円筒度との大きな違いです。
例3|円筒度 0.05 mm
円筒面全体が、半径方向の間隔0.05 mmとなる2つの同軸円筒面の間に収まることを考えます。真円度だけでなく、軸方向を含めた円筒面全体の形状を規制します。
例4|位置度 ⌀0.05 mm
穴軸線などに⌀0.05 mmの位置度が指示される代表例では、理論位置を中心とした直径0.05 mmの円筒状公差域に軸線が入ることを考えます。半径で考えると中心から0.025 mmの範囲ですが、図面の公差値は直径として指示されています。
寸法公差との違い
寸法公差は、長さ・直径・厚さなど「サイズ」の許容範囲を規制します。一方、幾何公差は、形状・姿勢・位置・振れなどを幾何学的な公差域で規制します。
| 寸法公差 | 幾何公差 | |
|---|---|---|
| 主に規制するもの | 長さ・直径・厚さなど | 形状・姿勢・位置・振れなど |
| 見方 | 上限・下限、±公差など | 公差域の中に対象形体が入るか |
| 例 | ⌀20 ±0.02 | 平面度0.05、位置度⌀0.10など |
サイズが寸法公差内に入っていても、必要な幾何公差を満たすとは限りません。反対に、幾何公差だけを見てもサイズ公差の合否は判断できません。図面では両方を組み合わせて機能を保証します。
データムが必要な公差・不要な公差
公差域を理解するとき、データムの有無は大きな分岐点です。
- 形状公差:真直度・平面度・真円度・円筒度は、基本的に対象形体そのものの形状を規制するため、通常データムを使いません。
- 姿勢公差:平行度・直角度・傾斜度は、基準に対する姿勢を規制するため、データムが必要です。
- 位置公差:位置度・同軸度・対称度などは、基準との関係で位置を定める指示が多く、データムが重要です。
- 振れ公差:円周振れ・全振れは、回転の基準となるデータム軸などとの関係を見ます。
技能検定でも、記号だけでなく「この公差はデータムを必要とするか」をセットで理解しておくと、図面問題で迷いにくくなります。
現場での測定・評価で気をつけること
公差域は図面上の許容領域であり、特定の測定器や測定手順そのものを意味しません。実際の合否判定では、測定方法・測定点数・基準の作り方・評価アルゴリズム・測定不確かさなども影響します。
- 定盤+ダイヤルゲージ:現場で平面度の傾向を見るのに有効ですが、置き方や基準合わせで読みが変わります。
- 三次元測定機:多数点から形体を評価できますが、測定点の配置、フィルタ、評価条件をそろえる必要があります。
- 真円度測定機:真円度の専用評価に適していますが、心出し・レベリング・フィルタ条件などの管理が重要です。
- 測定点の最大値-最小値:現場の簡易確認には使えても、それだけで常に規格上の正式評価になるとは限りません。
実務ポイント:図面の「公差域」と、検査工程の「測定方法・判定方法」は分けて考える。検査規格や顧客要求がある場合は、そちらを優先します。
よくある間違い
- 公差値だけを見る
0.05という数字が同じでも、公差域の形は同じとは限りません。 - 真円度と円筒度を同じと考える
真円度は断面、円筒度は円筒面全体を規制します。 - 平面度にデータムが必要だと思う
平面度は対象面そのものの形状公差なので、通常データムを使いません。 - 位置度の公差値を半径だと思う
⌀記号付きの位置度では、公差値は円筒公差域の直径です。 - 測定器の表示値=公差域そのものと考える
測定値は公差域への適合を判断するための情報であり、公差域の定義そのものではありません。
🎓 技能検定につながるポイント
図面問題では、記号を見たら次の4点を頭の中で確認します。
- 何を規制する記号か
- 対象は面・線・軸線・中心面のどれか
- 公差域は2平面・2円・2円筒・円筒など、どんな形か
- データムが必要か
この4点を説明できれば、単なる記号暗記から一段進んで「図面を読める状態」になります。特に、真円度と円筒度、平面度と平行度、位置度と寸法公差の違いは混同しやすいので重点的に整理しておくと有効です。
ミニ問題
Q1. 真円度の公差域は2つの平行平面?
答え:いいえ。同一断面上の2つの同心円の間です。
Q2. 平面度0.05 mmは、基準面Aに対して0.05 mm以内という意味?
答え:いいえ。平面度はデータムを使わず、対象面自体が距離0.05 mmの2平行平面内に入ることを考えます。
Q3. 位置度⌀0.10 mmの代表的な穴軸線の指示では、公差域の半径は0.10 mm?
答え:いいえ。⌀0.10は公差域の直径です。半径は0.05 mmです。
まとめ
- 公差域は、対象形体が入るべき幾何学的な許容領域
- 同じ公差値でも、幾何特性によって領域の形・対象・基準が変わる
- 平面度=2平面、真円度=2同心円、円筒度=2同軸円筒面が代表例
- ⌀記号付き位置度では、円筒状公差域になる代表例がある
- 公差域と測定方法は別物。現場では測定条件・評価条件も確認する
- 図面では「記号 → 対象形体 → 公差域の形 → データム」の順で読むと理解しやすい
参考
- 日本規格協会|JIS B 0021:1998 製品の幾何特性仕様(GPS)―幾何公差表示方式
- ISO|ISO 1101:2017 Geometrical tolerancing
- キーエンス|幾何公差図面と記号について
JIS B 0021:1998は日本規格協会の掲載上「有効」で、2023年10月20日に確認されています。ISO 1101:2017もISOで現行版として掲載されています。実務では、使用する図面・顧客仕様・社内検査規格に指定された規格と版を優先してください。
機械検査の教科書

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