寸法公差と幾何公差は、どちらも部品を「図面どおりに作れているか」を判断するための重要な要求ですが、見ているものが違います。 寸法公差は主に直径・長さ・厚さなどの大きさを規制し、幾何公差は真直度・平面度・真円度・平行度・位置度・振れなどの形・向き・位置・振れを規制します。たとえば軸の直径が寸法公差内でも、断面が楕円なら真円度の要求を満たさないことがあります。逆に形状がきれいでも、寸法そのものが公差外なら寸法要求は不合格です。
基本は要求項目ごとに確認しますが、最大実体要求(MMR)などが指示される場合は、寸法と幾何特性が相互に関係するため「常に完全に独立」とは限りません。
30秒でわかるポイント
まずは「何を合格判定しているのか」を分けて考えると理解しやすくなります。
| 比較項目 | 寸法公差 | 幾何公差 |
|---|---|---|
| 主に見るもの | 大きさ | 形・向き・位置・振れ |
| 代表例 | 直径、長さ、厚さ、幅 | 平面度、真円度、平行度、位置度、振れ |
| 図面での表し方 | 寸法値+許容差など | 幾何公差記号+公差値+必要に応じてデータム |
| 検査の考え方 | 実測した大きさが許容範囲内か | 対象形体が指定された公差域内に収まるか |
重要なのは「寸法が合格=図面全体が合格」ではないことです。 図面に寸法公差と幾何公差の両方が要求されていれば、それぞれの要求を確認します。
なお、最大実体要求(MMR)・最小実体要求(LMR)・相互要求(RPR)のように、サイズと幾何特性を関連付けて機能を管理する指定もあります。初心者の段階では、まず「通常は寸法と幾何を分けて読む」、次に「Ⓜなどの修飾記号があれば例外条件を確認する」と覚えると整理しやすいです。

現場ではこう考える
現場では、「寸法を測る」ことと「形状や位置関係を評価する」ことを分けるのが基本です。代表的な例を見てみます。
例1|板厚はOKでも平面度がNG
板の数か所を測って厚さがすべて許容範囲内でも、板全体が反ったり波打ったりしていれば、平面度の要求を満たさない場合があります。厚さは「大きさ」、平面度は「面の形」を見ているためです。
例2|軸径はOKでも真円度がNG
たとえば軸径が図面の寸法公差内でも、断面が真円ではなく楕円に近い形なら、真円度が公差外になる可能性があります。1方向だけの直径測定では見落としやすいため、要求内容に応じた測定方法が必要です。
例3|穴径はOKでも位置度がNG
穴径そのものが規定範囲内でも、穴の中心位置が設計上の正しい位置からずれていれば、位置度の要求を満たさない場合があります。組付け穴では、径だけでなく「どこに開いているか」が機能に直結します。
検査するときの基本順序
- 図面で対象寸法と許容差を確認する
- 幾何公差記号の有無を確認する
- データム参照がある場合は基準を確認する
- 要求に合った測定器・測定方法を選ぶ
- 寸法と幾何特性をそれぞれ判定する
「測れるものから測る」のではなく、図面が何を保証したいのかを先に読むことが、誤判定を減らすポイントです。

よくある間違い
寸法公差と幾何公差を混同すると、実際には図面要求を満たしていない部品を「合格」と判断してしまうことがあります。特に次の勘違いは要注意です。
間違い1|ノギスで寸法OKなら全部OK
ノギスは長さ・外径・内径などの大きさ確認には便利ですが、平面度・真円度・位置度などをそのまま判定できるわけではありません。図面に幾何公差があれば、その要求に適した評価が別に必要です。
間違い2|1か所の測定値だけで形まで判断する
軸を1方向だけ測って直径が公差内でも、90°方向では値が違うことがあります。また、長手方向の位置によって径が変化することもあります。測定点や方向を変えることで、寸法だけでは見えない形状の異常に気づける場合があります。
間違い3|データムを読み飛ばす
平行度・直角度・位置度・振れなどでは、どの面や軸を基準に評価するかが重要です。データム参照が指定されている場合、その基準を無視すると同じ部品でも評価結果が変わり得ます。
間違い4|公差境界の値を即断する
測定値が公差限界付近にある場合は、測定器の分解能、測定力、温度、測定不確かさ、社内の判定ルールなども確認が必要です。表示値だけを見て機械的に判断すると、誤判定につながることがあります。

🎓 技能検定につながるポイント
技能検定や図面読解では、幾何公差記号を見た瞬間に「何を規制している公差か」へ分類できると、問題を整理しやすくなります。
| 分類 | 代表例 | 見るポイント |
|---|---|---|
| 形状 | 真直度・平面度・真円度・円筒度 | 対象そのものの形 |
| 姿勢 | 平行度・直角度・傾斜度 | 基準に対する向き |
| 位置 | 位置度など | 基準に対する位置関係 |
| 振れ | 円周振れ・全振れ | 回転させたときの変動 |
形状公差は対象形体そのものの形を規制するため、通常はデータムを使わないものが中心です。一方、姿勢・位置・振れでは基準との関係を評価することが多いため、データム参照の有無を必ず図面で確認します。
問題を解くときの5ステップ
- 幾何公差記号を特定する
- 何を規制する公差か分類する
- 公差値と公差域を読む
- データム参照の有無・順序を確認する
- 寸法公差の要求と分けて合否条件を整理する
さらにⓂなどの修飾記号が付く場合は、最大実体要求などによってサイズと幾何特性が関連する可能性があります。記号を見落とさず、通常の独立した読み方との違いを意識することが重要です。

ミニ問題
Q. 直径寸法がすべて公差内なら真円度も自動的に合格?
答え:いいえ。 直径寸法が公差内でも、真円度は別の幾何特性として評価します。寸法の合格だけで真円度まで自動的に合格にはなりません。
Q2. 板厚がすべて公差内なら、平面度も必ず合格?
答え:いいえ。 厚さが規定範囲内でも、面が反っていれば平面度が外れる可能性があります。「厚さ」と「面の形」は別の要求です。
Q3. 最大実体要求が指示されていても、寸法と幾何公差は完全に別々?
答え:いいえ。 最大実体要求(MMR)などが適用される場合は、サイズと幾何特性が相互に関係します。図面に修飾記号がある場合は、通常の独立した読み方だけで判断しないことが重要です。
覚え方:「寸法=大きさ」「幾何=形・向き・位置・振れ」を基本にし、修飾記号があるときだけサイズとの関係を追加で確認します。

まとめ
寸法公差と幾何公差の違いは、「何を規制しているか」で整理すると分かりやすくなります。
- 寸法公差:直径・長さ・厚さ・幅など、主に大きさの許容範囲を管理する
- 幾何公差:形状・姿勢・位置・振れなど、部品の幾何学的な状態を管理する
- 寸法OKでも幾何公差NGはあり得る:軸径OKでも真円度NG、板厚OKでも平面度NGなど
- 図面ではデータムと修飾記号も確認:基準や最大実体要求などによって評価方法が変わる場合がある
- 測定器は要求に合わせて選ぶ:ノギスで測れる項目だけで図面全体を判定しない
現場での最終チェック
- 寸法値と寸法公差を確認
- 幾何公差記号と公差値を確認
- 必要なデータムを確認
- 要求に合った測定方法を選択
- 修飾記号がある場合はサイズとの関係を確認
この順序で図面を読むと、「寸法を測って終わり」という見落としを防ぎやすくなります。次の記事では、幾何公差そのものの基本をさらに詳しく整理します。

参考
この記事では、寸法と幾何を分けて理解するための入口に絞って解説しました。規格を確認するときは、対象が「寸法」なのか「幾何」なのか、さらにサイズと幾何が関連する要求なのかを分けて読むと整理しやすくなります。
- キーエンス 幾何公差記号一覧:代表的な幾何公差記号を確認するときの補助資料
- ISO 14405-1:2025:線形サイズの寸法指示に関する規格
- ISO 1101:2017:形状・姿勢・位置・振れの幾何公差を示す記号言語と解釈の基礎
- ISO 2692:2021:最大実体要求(MMR)・最小実体要求(LMR)・相互要求(RPR)を扱う規格
学習の順番: 寸法公差 → 幾何公差の基本 → データム → 真直度・平面度・真円度などの個別公差 → 位置度・振れ → 最大実体要求などの修飾条件、と進めると理解しやすくなります。

機械検査の教科書

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